僕らは僅かに

最近、兄はわらび餅を食べた後に残ったきな粉と黒蜜に喜ばなくなった。

前までは混ぜて牛乳に入れて飲んでいたのに、「食べていいよ」なんて言われたからびっくりしてしまった。

「いや、食べんけど。」そう返しておいた。

そういえば、もうわらび餅のパックを工作して湯船に浮かべたりすることもいつの間にか無くなった。「透明丸」と名付けた力作のわらび餅パック船はどこかへ消えた。

 

 

わらび餅以外も、全部そうだ。

アイスを半分残して翌日に食べることも、ペットボトルの飲み物を途中まで飲んで冷蔵庫にしまうことも、10円ガムの当たりを純粋に望むことも出来なくなった。

アイスは開けたら1回で全部食べるし、ペットボトルの飲み物は秒で無くなるし、10円ガムは「当たるかな?」じゃなくて「当たったら無料でもう一個!」と思うようになってしまった。

ささやかな楽しみの存在さえ忘れていた。

それから、1時間経つのがあっという間になった。30分なんて一瞬で過ぎ去ってしまう。

中学校までは一日が長くて長くて長くて、朝から夜まで1週間全部行動が密集した日々を送っていたというのに、何もせずに一日が終わる日々の方が多くなってきた。良くないな。

 

アイスも飲み物も秒で消えてしまうし、時間が経つのが早いし、受験は指定校がほぼ確定したから やかましく言われていた「勉強しなさい」を言われなくなった。

これから先「勉強しなさい」なんて怒られる日は来ない気がする。

 

「大人になっちゃったのかなぁ。」

 

お酒が飲めるようになったとか、タバコが吸えるようになったとか、選挙権を持ち始めたとか、そういう"大人の仲間入り"じゃないところで変に子供から抜けたことを感じた。

まだ子供ではあるけど、さすがに義務教育を抜けてから月日が経ったから子供ではない。

かと言って大人になったわけではない。

僕らは僅かに、微量ながら大人へとなっていく。