急に社会が

初冬の候

寒い日が続いていますが皆さんはいかがお過ごしでいらっしゃいましょうか。

私は最近めでたく大学に合格して進路が決まり、高校卒業を目前に控えています。新しい生活に思いを馳せる日々を送っています。新しい生活…好きなことを学び、髪を染めてお化粧をして、とにかくやりたいことや実現できることの範囲が広がるような生活。

しかし、楽しいことばかり考えてはいられません。

大学生になったら、バイトをしなくてはならない。これは避けては通れないことです。

単刀直入に言うと、私は働きたくないです。

働かないとお金が手に入らないことは分かってます。でも、働きたくない。厳密に言うと自分が働いているイメージが全く出来ないから怖い。情けない限りです。

それから、もうひとつ理由があります。

それは急に社会が目の前に現れたということです。どういうことかというと、今までは「まだ高校生なんだから部活とか勉強しなさい」と言われていたのに、大学に合格するやいなや「もう大学生になるんだからバイト見つけなさいよ」と言われる。つまり、今までの「高校生だから」という免罪符が無くなってしまったということ。怖い。あたかも急に社会が私に牙を剥いているようで。制服を着ているか制服を卒業しているかの違いじゃないですか、なのに大学生でバイトをしてないと「ニート」の烙印を押されてしまうとは、いかに。

まぁ、こうやっていつまでも怯えてちゃ居られないので大人しくバイト募集してる場所を探してお金を稼ぎます。目指せ社会適合者!

日々常々

「わかんないなぁ」

 

今日もテレピン油の匂いが充満している部室で現代アートの画集を見ている。

最近見ているのは村瀬恭子さんの画集である。

ページをめくる。

 

骨が抜かれたような柔らかな手足、水に頭まで浸かった時のような浮遊感、遠近感が分からない空間、常に目を閉じているか後ろを向いている少女。

彼女の作品の特徴は簡単に言うとこの4つだと思う。他にもあるだろうけど、私が作品を見て感じたのはこの4つである。

風や水になびく(というより一体化の方が近い気がする)髪や手足を描くことで、その感覚を見る人に伝達しようとしているらしい。たしかに、それを言われたらそう見える。どの作品にもいる少女が水や大気と一緒に浮いている。それから、空間にあるもの同士の位置感覚が分からないのも分かる。まるで奥行の感覚が無視されてるような…、、平面の世界で、少女が感じている感覚を見せることにとても注意を払っている。…………気がするような、しないような。

 

むずかしいなぁ。

一目見ただけでこれらを感じたり理解するのは無理だ。

何回も見て、評論を見て、彼女が着想を得たもの、モチーフの意味、絵画で表現したいものを少しずつ理解する。そうじゃないと理解は無理に等しい。

 

顧問の先生曰く、彼女は現代アートの中でも難しい作品を描く人だという。

 

どおりで、作品の魅力を発見するのが難しいわけだ。

 

全ページを見終わった。

 

多分生で見たら圧倒されるんだろうな、彼女が表現したい生々しい体感感覚が感じ取れて。

彼女の魅力は完全に理解した訳では無いが、ほぼ毎日見るほどの魅力があることだけは分かっている。

 

いつか彼女の作品を見て、表現したいことを理解できる日はくるのだろうか。

過疎り売店

テスト週間でお昼頃に下校出来ているこの数日間で、私は最寄り駅の近くにあるお店が開いていることに気がついた。

 

いつも通っている道にあるのだが、シャッターが閉まっている所しか見たことがなかったため中々レアな光景である。隣にはタバコ屋が併設されていて、そちらもまた、開いている様子を初めて見た。

外から中の様子を見てみると、店の棚にはポテチの筒が射的の屋台のように数本並べられていて、後ろの棚には1箱だけ栄養ドリンクが置かれていた。他には特に、何も無い。店主であるおじいさんが座って作業するための机と椅子、なんかの賞状、多分家に繋がってるドア…商品はこれ以外にないのだ。もはや射的屋さんである。まるで撃ち落とされるのを待っているかのように、等間隔に並べられた塩味のポテチの筒がここには売られている。

 

 

今日もそのお店の前を通ってきた。

ポテチの筒は変わらず等間隔に並べられていた。

 

とある日

学校でシャボン玉を飛ばした。

前日に特に意味もなく、何となく買ったのだ。

静かな校舎の至る所で友人と一緒に無数に飛ばしてきた。

 

❍。

 

「シャボン玉って儚いねぇ」

 

そう言いながら友人も教室の中でシャボン玉を飛ばした。

少しして、全部消えた。

 

「露命だね」

現代文で習った言葉を使ってカッコつける。

 

美しいのにどこか弱々しく、まるで露のように儚い命。

シャボン玉はまさにそうである。

幻想的で美しいのに、あの形で存在できる時間が短すぎる。

それゆえ、儚い。

 

「シャボン玉以外にも儚いものってあるのかな」

友人が沢山のシャボン玉に包まれながら言った。

 

「儚いもの………」

頭の中で四季を思い浮かべてみる。

春だったら、桜。

夏は 校庭の隅に落ちた氷とか、プールサイドの水溜まりとか。

秋は、なんだろう。移行期間になってしまった夏服とか、金木犀かな。

冬は 街に降りた霜と雪だるまとか。

 

とりあえずこれくらいかも。

うーーん。

「全部写真にして取っておきたいな」

 

 

「そっか」

彼女はまたシャボン玉を吹いた。

無数の透明に包まれて消え入りそうだったから、思わず息を飲んでしまった。

彼女もまた、儚い。

さらば夏服、おはよう冬服

うだるような暑さと蝉の声と恐ろしいほど晴れた空が何回も通り過ぎて、冷たすぎる雨が降って金木犀が香る風が吹く季節になった。

寒くて起きれない。雨が冷たい。いい香り。靴下が微妙に濡れて、寒い。

 

 

「えー、今週から制服移行期間です」

朝の会で担任がそう言った。

早く言えよ、最悪、病んだ病んだ とヤジが飛ぶ。朝からブーイングの嵐である。

あ〜あ ぴえんぴえん、治安が悪い。

 

制服移行期間か。

 

夏服飽きてきたし、寒いし、もう冬服でいいかな。でも、今年は高校生として最後の年だから、ずっと着続けたい。でも、寒い。私は夏服の上にジャージを羽織っているが、それでも寒い。でも、可愛いからまだ着たい。でも寒い。でも着たい。でも寒い。

 

 

ぐるぐる考えた末、結局私は冬服を着て登校した。

なんてったって寒いのだ。寒さには抗えない。移行期間最終日まで夏服でいようと決意した私はどこへやら、真っ先に冬服に移行した。

靴下は短いままだが。

 

 

冬服を着た事により、"高校生"としての夏服は終わってしまった。

これから寒い日が続くから、きっと夏服は着ないだろう。

 

バイバイ、夏服。3年間ありがとう。

いつもより丁寧にハンガーにかけてクローゼットにしまった。

手に汗握る女達

今日は生徒会役員選挙だった。

私は委員会の関係で司会を任され、全校生徒が静かにしている最中進行をした。

今年は例の感染症対策で放送での進行だった。

 

今年の生徒会立候補者ならびに応援演説者は1年生が多く、みんな緊張していた。

台本を持つ手が震え、声が揺れ、涙を流す。

過呼吸を起こした生徒もいた。

全員命懸けである。

今年は立候補者が10人居て、その内会長と副会長が決起投票。落ちる人数は2人。

それから、信任投票とはいえ他の役職に立候補した生徒も気が抜けない。

緊張している子を見て緊張するという負の連鎖、落ちるかもしれないという恐怖、一言噛むだけで笑いが起きる教室。

それらのプレッシャーを感じながら、ほぼぶっつけ本番で演説を放送する。

 

7番目の演説が終わった。

立候補者と応援演説者がハイタッチをして退出していく。「頑張ったね」「ありがとうね」泣いている声で励まし合う声が聞こえた。

 

ここにはドラマが部屋いっぱいに詰まって溢れかえっている。教室で眠っている人はこれを知る由もないが。

脳内蹂躙するガール

最近、彼女である後輩のことをほぼ24時間思っている。気づいたら考えている。

 

今日だって持久走を走る時、ずっと彼女のことを考えて走っていたらタイムが一学期より5秒ほど上がった。愛の力というのは計り知れない。

 

最近じゃなくて最初から24時間思ってただろ、と言われると、人から見るとそうかもしれないが私の感覚ではそうではない。

 

なぜなら、最初はあくまで"後輩"であったし、毎晩のように彼女が夢に現れることなど一切無かったからだ。夢の片隅に出たかどうか、くらいだったのが今はずっと登場している。

 

私と彼女しか居ない家、街、プール、学校。

今日はエレベーターの中を一緒に落ちていった。

 

彼女は泣いていたり、満面の笑顔だったり、恥ずかしがっていたり。

 

「好きです」は毎回言ってくれる。

 

朝そんなふうな夢から目覚めて、放課後部活に行くと夢よりも可愛くて美しい現実の彼女が待っている。

 

こちらでも「好きです」は毎回言ってくれる。

 

寝ても醒めても 彼女、彼女、彼女、後輩。

 

この後頭部だって、何回見たことか。

 

 

 

「先輩、好きですよ」

 

今日もそう言って彼女は帰っていった。

 

 

 

彼女が帰宅してからも廊下から彼女の笑い声が聞こえる。帰宅してから10分くらい経ったのに、実際は吹奏楽部の楽器の音だというのに、それが声に聞こえるくらい、私の脳内は蝕まれている。