待ち望む機会もないのに

夢を見た。

 

ウェディングドレスを着た後輩を見て「綺麗だよ」と私が言う夢。

私もウェディングドレスを着ていて、後輩は喜びながら泣いていた。

 

現実にありそうなリアクション。

妙にリアルな夢である。

 

後輩はただただ美しくて可愛かった。水の中で揺れるオオカナダモの花のように幻想的で、かすみ草のブーケように美しかった。

世界の誰よりも綺麗だった。

 

 

これが現実だったなら、私は。

どうしようもなく幸せで充実した生活を送れるんだろうな。

「今 愛を誓ってしまえば一生自分の隣に心の底から大好きな人がいる生活が待っている」

そう思った私は

「2人だけの家で幸せそうに暮らそうよ」

と言った。

 

 

目が覚めた。

 

6時。スマホのアラームが嫌という程現実を見せてくる。

 

卒業したら別れる契約で付き合っているというのに、都合が良くて甘い夢を見た。

僕らは僅かに

最近、兄はわらび餅を食べた後に残ったきな粉と黒蜜に喜ばなくなった。

前までは混ぜて牛乳に入れて飲んでいたのに、「食べていいよ」なんて言われたからびっくりしてしまった。

「いや、食べんけど。」そう返しておいた。

そういえば、もうわらび餅のパックを工作して湯船に浮かべたりすることもいつの間にか無くなった。「透明丸」と名付けた力作のわらび餅パック船はどこかへ消えた。

 

 

わらび餅以外も、全部そうだ。

アイスを半分残して翌日に食べることも、ペットボトルの飲み物を途中まで飲んで冷蔵庫にしまうことも、10円ガムの当たりを純粋に望むことも出来なくなった。

アイスは開けたら1回で全部食べるし、ペットボトルの飲み物は秒で無くなるし、10円ガムは「当たるかな?」じゃなくて「当たったら無料でもう一個!」と思うようになってしまった。

ささやかな楽しみの存在さえ忘れていた。

それから、1時間経つのがあっという間になった。30分なんて一瞬で過ぎ去ってしまう。

中学校までは一日が長くて長くて長くて、朝から夜まで1週間全部行動が密集した日々を送っていたというのに、何もせずに一日が終わる日々の方が多くなってきた。良くないな。

 

アイスも飲み物も秒で消えてしまうし、時間が経つのが早いし、受験は指定校がほぼ確定したから やかましく言われていた「勉強しなさい」を言われなくなった。

これから先「勉強しなさい」なんて怒られる日は来ない気がする。

 

「大人になっちゃったのかなぁ。」

 

お酒が飲めるようになったとか、タバコが吸えるようになったとか、選挙権を持ち始めたとか、そういう"大人の仲間入り"じゃないところで変に子供から抜けたことを感じた。

まだ子供ではあるけど、さすがに義務教育を抜けてから月日が経ったから子供ではない。

かと言って大人になったわけではない。

僕らは僅かに、微量ながら大人へとなっていく。

恐ろしいほど幸せな日

東から光が走る最中、顔を洗って髪を整えて鏡の前でキメ顔をする。

鏡の中で私が笑うのを見る。時間がないと言うのに。

 

今日は恐ろしく気分が良い。

その理由は昨日にある。

昨日の部活で私が思いを馳せている後輩に、名前を呼んで貰えた。

私の名前はよく居る普遍的な名前で、部内で私含め2人いる。漢字まで一緒。ややこしくならないように私は通常名字で呼ばれているのだが、昨日は名前で呼ばれたのだ。しかも、"さん"付け。

 

元々自分の名字は大好きだし、名字で呼ばれることも好き。でも、名前は特にそこまで。

それでも私は名前で呼ばれると嬉しい気持ちになるらしい。

 

それから、「人の名前と顔覚えるの苦手なんです」と言っていた彼女が私のフルネームを覚えていてくれたことに感動したし、それを伝えたら「当たり前ですよ!先輩ですから!」と言ってくれたことが嬉しかった。

 

自分の名前も前より少しだけ好きになった。

 

そんな幸せを思い出していたら、

いつもなら家を出ている時間を過ぎていた。

マスクの下に笑みを浮かべながら光の如く家から飛び出した。 

 

 

海を渇望する人魚

私の友達には人魚のように美しい子がいる。

美人で、歌が上手くて、髪と足が綺麗。

是非とも海で生活して欲しい。しかし、私が住む県には海がない。海を見ただけで芸能人を見たレベルで騒ぐくらい、私たちは海と関係が身近ではない。

 

その子が言っていた「海の中に住めたら良いと思わない?」という言葉を聞いて、海に住んでないから海に住みたがってる人魚みたいだな と思った。海を渇望している人魚。

それか、海に住みたいけど我慢して淡水の川に生息している人魚みたいだ。

しかし、海の中で生きてほしい気持ちがあるが、海の奥底で水泡になって消えそうだから入って欲しくない気持ちもある。

それくらい、彼女は儚い。

青空が一面の青すぎて悲しくなる時がある。

それと同じように、彼女を見るとどこか寂しくなる。

白く焼けた肌、大きい目、真っ直ぐ伸びた長髪、細い手足。

美しい、けど どこか脆い。儚い。

そんなイメージまで人魚に似ている。

だから海に入ったらすぐ消えてしまうような気がする。

 

 

そんなことを考える7限目の今日だった。

  

 

ちなみに、ここまで書いてあること全部嘘です。